【業界別】製薬業界における生成AIの活用事例
- Iizuka, K
- 2025年8月31日
- 読了時間: 9分
更新日:7月18日

導入
製薬業界は、新薬開発から製造、販売に至るまで、極めて高度な専門知識と複雑なプロセスが要求される分野です。膨大な研究データ、臨床試験の結果、規制要件、市場動向など、日々大量の情報を取り扱い、その効率的な管理と活用が企業の競争力を左右します。
この課題に対し、近年、生成AI(Generative AI)の活用が急速に進んでいます。
生成AIは、テキストや画像、コードなどを自動で生成する技術であり、従来の業務を効率化するだけでなく、新たな価値創造の可能性を秘めています。
この記事では、製薬業界のリーディングカンパニーが実際にどのように生成AIを導入し、どのような成果を上げているのか、具体的な事例を通じてご紹介します。
製薬業界における活用事例
製薬業界では、情報機密性の高さから、セキュアな環境での生成AIの利用が最重要課題とされています。そのため、多くの企業がMicrosoft Azure OpenAI Serviceなどのサービスを利用し、自社の閉域網内でデータを安全に管理しながら生成AIを導入しています。
中外製薬:全社向け独自アプリでDXを加速
中外製薬は、全社員向けの独自生成AIアプリ「Chugai AI Assistant」を開発・リリースしました。このアプリは、ChatGPTを含む6種類のAIモデルを搭載しており、ユーザーは用途に応じて最適なモデルを選択できます。全社員の約9割が利用可能となり、月間アクティブユーザーも6割を超えるなど、社内への浸透が急速に進んでいます。
主な活用用途は、メール・文書作成支援、翻訳、要約、会議資料の作成といった業務効率化です。さらに、同社は「点から線へ、線から面へ」というビジョンを掲げ、単一タスクの効率化から、創薬ビジネス全体を変革するレベルへと生成AIの活用を拡大していく構想です。
第一三共:セキュアな環境で全社展開
第一三共は、自社開発の生成AIシステム「DS-GAI(ディーエス・ガイ)」を国内グループ会社を含む全従業員約9,300名を対象にリリースしました。セキュリティを確保した閉域網での運用により、幅広い社員が安心して利用できる環境を構築しています。リリースからわずか2カ月で、1日の平均利用者数は約500名に達しました。
アイデア出し、コーディング支援、文章作成など多岐にわたる領域で活用されており、プログラミング知識のない社員がアプリをカスタマイズしたり、従来外注していた作業を内製化する事例も生まれています。今後は、用途に合わせた追加学習により、定型業務の効率化だけでなく、部署ごとの固有ニーズに応じた高度な活用を目指しています。
小野薬品工業:MR業務への応用
小野薬品工業は、セキュアな環境を最優先に企業型ChatGPTをグループ全体で展開しました。PCを日常的に使う社員の7割以上が利用するまでに浸透しています。活用用途は、検索、翻訳、要約、校正といった言語関連の業務が中心です。
特にMR(医薬情報担当者)の業務においては、文献の翻訳・要約や、業務報告書の構成作成に加えて、医療従事者への資材活用の壁打ちや、医師との対話を模擬したロールプレイングにも活用されています。今後は、社内データとの連携を見据え、コールセンターの問い合わせ自動化や、医師のニーズ分析といった、より専門性の高い業務への応用も計画しています。
塩野義製薬:新薬開発プロセスの短縮
塩野義製薬は、新薬開発プロセスの短縮を目指し、生成AI活用を推進しています。特にボトルネックとなりやすい臨床試験のメディカルライティング業務に焦点を当て、初稿作成までをAIに担わせるアプリケーションを開発しています。
現在、「過去文書検索AIアプリ」と「文書作成支援AIアプリ」の2種類を開発中です。これにより、メディカルライティングプロセス全体で15~20%の効率化を目標に掲げています。将来的には、承認申請までの期間を短縮し、患者に一日でも早く新薬を届けることを目指しています。
住友ファーマ:全社的なチャットツールの導入
住友ファーマは、2023年5月から生成AIチャットツールの全社運用を開始しました。外部への情報流出リスクを排除した安全な環境で提供されており、メール文面の添削、翻訳、プレゼンテーション資料のたたき台作成など、多様な業務効率化に活用されています。
今後は、医薬品や薬剤開発に関する情報を組み込んだ「強化版生成AI」の開発を進め、製薬企業としての専門性を活かした次世代の活用へと展開していく構想です。
製薬業界における業務での活用事例
生成AIは、製薬業界の様々な業務プロセスで具体的な効果を発揮しています。
業務での活用事例:社内報告資料作成
📄 骨子作成とメッセージ検討

社内報告資料の作成において、出張メモや売上データなどから、経営層に響く資料の骨子やメッセージラインをゼロから設計するのは非常に時間がかかります。生成AIは、抽象的な指示からでも、聞き手に伝わりやすい構成や要点を自動で生成し、議論の出発点を提供します。これにより、意思決定に資する資料作成を効率的に進めることができます。
📊 情報・データ収集/整理・分析

新薬開発に関する膨大な研究論文や、アニュアルレポートから特定の情報を探し出す作業は、多大な労力を要します。Deep Researchのような専門的なAIツールやChatGPTを活用することで、複数の情報源を横断的に調査したり、大量の文書から必要な要素(例:疾患領域ごとの発表数、リスク要因など)を効率的に抽出・整理することが可能です。
🎨 スライド化(イラスト作成・文章の洗練)

スライド資料に説得力を持たせるには、イラストや写真、洗練された文章が不可欠です。生成AIは、頭の中にあるイメージを具現化するイラストを生成したり、メモ書きのような文章を報告書用のフォーマットに整形したりすることができます。これにより、スライドの視覚的・論理的な品質を向上させ、より伝わりやすい資料を作成できます。
✍️ 資料レビュー(誤字脱字チェック・仮想レビュー)

完成した資料の最終チェックにも生成AIは役立ちます。PDFを読み込ませて誤字脱字や表記揺れをチェックするだけでなく、「研究開発部長」や「薬事担当者」といった仮想的な有識者の視点から資料をレビューさせることも可能です。これにより、提出前に抜け漏れや論理の矛盾を事前に洗い出し、資料の完成度を高めることができます。
🏢 壁打ち(研究報告・検討の相談相手としての活用)
沢井製薬では、若手研究員がベテランに依存しがちだった研究報告のプロセスに生成AIを導入しました。生成AIを「ベテラン研究員の相談相手」として活用することで、若手が自律的に情報を収集・整理し、検証レベルを向上させることができました。これにより、ベテラン研究員は最終確認に集中できるようになり、チーム全体の生産性が向上しました。
弊社の紹介
合同会社LAUHPは、生成AIに関するお客様の課題解決と目標達成を支援するコンサルティング会社です。若手メンバーを中心に、大手コンサルティングファーム出身者で構成されており、多様な業種での豊富な支援実績を持っています。
弊社の強みは、大手ファームと同水準の高品質なサービスを、より利用しやすい価格でご提供できる点です。生成AIの導入段階でお困りの企業様から、導入後の社内定着や業務適用に課題を抱える企業様まで、貴社の課題に即した最適な支援を提供いたします。
製薬業界における弊社の支援実績
ご支援概要
東和薬品株式会社の特定部署に対し、生成AIの基礎理解から実務活用までを体系的に学ぶ、全6回のオーダーメイド型生成AI研修を実施しました。
本研修では、部門全体の生成AI活用レベルの底上げを図るとともに、日常業務の効率化・高度化に加え、戦略立案といった高度な業務への活用を見据えた支援を行いました。
課題感
研修開始前は、生成AIを活用している人や活用されている業務が一部に限られており、部門全体としての活用が十分に広がっていない状況でした。
また、中長期ロードマップの策定や戦略立案といった高度な業務については、特定の人材の経験やスキルに依存しやすいという課題がありました。
そのため、生成AIを活用することで、日常業務の効率化だけでなく、高度な業務についても特定の人材に依存せず遂行できる体制を構築することが求められていました。
ご支援内容詳細
弊社では、3か月間にわたり、全6回の生成AI研修を実施しました。
研修では、生成AIの基本的な仕組み、得意・不得意、リスクとガバナンスといった基礎知識から、定番業務での活用方法、プロンプトエンジニアリングまでを段階的に取り扱いました。
さらに、調査・分析を伴う戦略立案業務や、企画書作成など、実際の現場で行われている高度な業務を題材として取り上げ、生成AIを実務で活用するための具体的な方法をお伝えしました。
研修内容は、現場へのヒアリング、受講者アンケート、研修企画ご担当者様との打ち合わせをもとに継続的に調整しました。また、個別質問への対応、プロンプトテンプレートの提供、RAGをテーマとした臨時研修など、研修時間外のサポートも実施しました。
研修によって得られた成果
研修前後のアンケートを比較した結果、生成AIについて一定以上の知識を持つ「中級者以上」の割合は、研修前の44%から研修後には89%へ向上しました。

また、生成AIを全く使用していない、または月に数回程度しか使用していない「低頻度利用層」は、研修前の22%から研修後には0%となりました。

さらに、生成AIを活用する業務数は、1人あたり平均3.6個から4.7個へと増加し、研修前と比較して約30%拡大しました。「生成AIを業務のどの工程で使えばよいか分かるようになった」と回答した受講者も82%に達しています。
生成AIに関する知識の習得だけでなく、日常業務で実際に活用する頻度や業務領域の拡大にもつながる研修となりました。

東和薬品株式会社 導入部門 本部長様からのコメント
新規事業の創出をミッションとする当本部では、新たな市場や事業機会を的確に把握するため、市場調査を迅速かつ継続的に実施することが不可欠です。一方で、「知らない」「経験がない」「リソースがない」といった理由から、新たな領域への挑戦をためらう場面が少なくないことが課題でした。
この課題を解決する手段として着目したのが、生成AIの活用です。しかし、導入当初は、実際の業務にどのように取り入れればよいのか明確なイメージを持てていませんでした。そのような中でLAUHP社と出会い、当本部の業務や課題を丁寧にヒアリングいただいた上で、実務に即したカスタマイズ研修をご提供いただきました。
研修を通じて生成AIの活用方法を体系的に学んだことで、現在では市場や技術に関する情報収集を行う際には、まず生成AIを活用して初期調査を実施することが当たり前の業務プロセスとなっています。また、事業戦略やビジネスプランの検討においても、生成AIを活用しながら議論を進めることが日常となり、本部内でAIを活用しない日はないと言っても過言ではありません。
その結果、「知らない」「経験がない」「リソースがない」といった理由で挑戦を諦めるのではなく、まずは生成AIを活用して情報を収集・整理し、自ら考え、次のアクションにつなげる文化が定着しています。さらに、資料作成や翻訳をはじめとする定型業務の効率化にも幅広く活用し、生産性向上にも大きく貢献しています。
なかでも最も大きく変化したのは、私自身の仕事の進め方かもしれません。生成AIは単なる業務効率化ツールではなく、意思決定や事業創出を支えるパートナーとして、当本部の業務に欠かせない存在となっています。今後も生成AIを積極的に活用し、新たな価値の創出と事業機会の拡大に取り組んでまいります。
